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東京地方裁判所 昭和28年(行モ)17号 決定 1953年8月28日

東京都墨田区千歳町一丁目一番地

申立人(原告)

小糸容器株式会社

右代表者代表取締役

小糸福太郎

右訴訟代理人弁護士

森川金寿

東京都文京区菊坂町八九番地

被申立人(被告)

本郷税務署長

山口善右衛門

申立人は被申立人を相手取つて、被申立人が昭和二十七年七月三十日別紙記載の不動産に対してした、利久醗酵工業株式会社の国税滞納による差押処分の取消を求める本案訴訟を提起し(当庁昭和二十八年(行)第六八号差押処分取消事件)、同時に右差押処分にもとづく公売処分の執行の停止を求める申立をした。当裁判所は右申立を理由ありと認め、次のとおり決定する。

主文

被申立人が昭和二十七年七月三十日別紙記載の不動産に対してした差押処分にもとづく公売処分の執行は、昭和二十八年(行)第六八号差押処分取消事件の本案判決あるまで、これを停止する

(裁判長裁判官 新村義広 裁判官 入山実 裁判官 石沢健)

物件目録

(一) 東京都葛飾区本田本根川町一一九番地の一

家屋番号 同町六四番

一、木造亜鉛葺平家建店舗 一棟 建坪九十一坪五合

以下附属

一、木造亜鉛葺平家建店舗 一棟 建坪九十坪

一、同 建坪四十四坪六合二勺

一、同 建坪十一坪二合五勺

(二) 東京都葛飾区本田本根川町一一一番地の二

家屋番号 同町六六番

一、木造亜鉛葺平家建店舖 一棟 建坪二十三坪五合

以下附属

一、木造亜鉛葺平家建店舖 一棟 建坪三十六坪

一、同 建坪 四坪

一、同 建坪二十四坪

(参考)

1 行政処分執行停止命令申請

墨田区千歳町一丁目一番地

申請人(原告) 小糸容器株式会社

右代表者取締役 小糸福太郎

千代田区麹町一ノ四竹工堂ビル(電話九段一二七二、四七三八番)

右代理人弁護士 森川金寿

文京区菊坂町八九番地

被申請人(被告) 国税庁東京国税局

本郷税務署長 山口善右衛門

申請の趣旨

被申請人が別紙目録記載の物件につきなしたる差押処分に基く公売処分の執行は申請人被申請人間の東京地方裁判所昭和二十八年(行)第六八号不動産差押処分取消請求事件の判決があるまでこれを停止する

との御命令を求む。

申請の理由

一、別紙目録記載の物件は申請人の所有であるが、申請人は昭和二十四年九月七日申請外鈴木高次より金六十万円を、元金の返済期限昭和二十五年三月八日限り、利息年一割、利息の支払は毎月末日限りの約束にて借り受け、右金銭消費貸借債務履行の担保として、前記不動産に第一順位の抵当権を設定することとし、その旨の公正証書を作成した。但し石抵当権設定は登記しなかつた。而して申請人はその際右不動産の登記済権利書並びに白紙委任状を鈴木に交付保管せしめた。

二、而して申請人は右約束の期限たる昭和二十五年三月八日、かねての打合せにより、右鈴木に合い、右元金六十万円(約定利息は前記に支払ずみであつた)を現実に提供して支払いをしようとしたところ、鈴木は前に交付した権利書、委任状等が現在ないから、先に金を貰い度いということであつたが、申請人は権利書等と引換でなければ困ると主張し、結局当日は支払いがなされなかつた。

三、然るに鈴木は右の権利書其の他の書類があるを奇貨として、昭和二十五年五月一日、申請外利久醗酵工業株式会社(以下利久会社と略称)に対する債務支払のため右不動産につき売買名義により所有権移転登記をなした。

よつて申請人は鈴木及び利久会社に対して種々交渉して日数を経過している中、昭和二十七年七月三十日、右不動産は、利久会社が酒税滞納あるにより、被告より滞納処分としての差押をうけるに至り、現在公売手続が進行中である。

四、しかしながら、申請人が鈴木に権利書及び委任状を交付したのは、単に債務保証のためであつて、これが所有権を譲渡したものではなく、また何らかの代理権を授与したものでもない。すなわちいわゆる譲渡担保でもないのであるから、鈴木がこれを利用して利久会社に所有権の移転登記をしても、所有権は依然申請人に存在し、右登記は無効である。

仮に右権利書、委任状交付につき民法第百十条の適用がありとしても、利久会社は、鈴木の所有名義でもない申請人会社名義の不動産で、しかも本件不動産(建物)には申請人会社の工場が存在していることは一見してすぐ判明するのであるから、利久会社に於て鈴木が本件不動産の所有権移転についての権限ありと信ずべき正当の理由があつたということはできないので、何れにせよ、所有権は利久会社には移転していないのである。

五、よつて被申請人が利久会社に対する租税滞納処分としてなした差押処分は違法であるから、申請人は別に本訴を以てこれが取消を請求しているのであるが、現在公売手続が進行中であるため、何時公売により第三者に権利が移転するかもはかり難く、一方右不動産は時価少くとも四百万円以上の価格をもつものであるので、申請人としては甚大な損害を蒙る虞れがある。よつて申請人は行政事件訴訟特例法の規定により本申請に及んだ次第である。

疏明方法

疏甲第一号証 不動産登記簿謄本 二通

第二号証 金銭消費貸借契約公正証書謄本 一通

第三号証 証明書 一通

第四号証 上申書 一通

附属書類

一、委任状 一通

一、資格証明書(追完) 一通

一、甲第一号証 一通

一、甲第二号証乃至第三号証写 各一通

右申請します。

昭和二十八年八月十五日

右申請人代理人

森川金寿

東京地方裁判所御中

2 意見書

申請人

東京都墨田区千歳町一丁目一番地

小糸容器株式会社

右代表者取締役 小糸福太郎

被申請人

東京都文京区菊坂町八九番地

本郷税務署長

大蔵事務官 山口善右衛門

右申請人と被申請人の御庁昭和二十八年(行)第六十八号申請事件について被申請人は次のよう意見を述べる。

意見

本件公売処分執行停止の申請は却下さるべきである。

理由

被申請人は民法第一七七条を具備せる登記完了の不動産に対し国税徴収法第十条及び第二十三条ノ三に従い適法な処分を為して居り之に対しての申請人の公売処分執行停止の申請は何等理由無いものと認める。

昭和二十八年八月二十四日

本郷税務署長

大蔵事務官 山口善右衛門

東京地方裁判所民事第二部

裁判官 新村義広殿

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